「にほん」か「にっぽん」か

今日(2016.9.22)のニュースのひとつに、世代によっては「ら抜き言葉」が過半数を超えたというものがありました。私も以前から関心がありましたが、ああ、ついにこうなったかと、60代前半の私は少々落胆したりしています。
ただし、「ら抜き」は文法上では間違いですが、実用上では合理的とも言えます。日本語には曖昧な部分がいくつもありますが、その一角を突かれた感じです。
そんなことを思っていたら、以前書いたエッセイを思い出しました。「日本」の読み方についてです。漢字の読み方にも曖昧な一面がありますが、「日本」の読み方は「にほん」か「にっぽん」か、どっちが正当なのかということです。それを、某タウン誌に連載していたエッセイで発表したことがあります。2003年のものですが、ここに再録してみます(冒頭の数行を省略しています)。

 

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「にほん」か「にっぽん」か

いまさら言うまでもなく、日本には「にほん」と「にっぽん」の二通りの呼称があり、どちらも大手を振って歩いている。日本は歴とした国家である。タレントの芸名や作家のペンネームではあるまいし、これはいささか珍妙だ。
「日本」の読み方は、昭和九年に、当時の文部省に設置されていた臨時国語審議会が「にっぽん」に統一しようとしたのだが、政府としては気分が乗らなかったのか面倒だったのか、外国へ宣言することもなく、併用のまま現在にいたっているのだそうだ。したがって、どちらが正しいという答などは出ないのが当然だが、せめて、使われ方の現状でも知っておけば、それはそれでおもしろいだろうと思って調べてみた。
まず、事典や辞典の見出しを調べた。見出しの扱い方によって、どちらに重きがおかれているかがわかるからだ。日本大百科全書では、「にっぽん」をひくと、『本書では「にほん」とする』と記されている。つまり、「にほん」を優先しているということだ。ブリタニカ国際大百科事典と日本歴史大事典にいたっては、優先どころか「にっぽん」という項目そのものがなく、「にほん」の不戦勝である。これなど、「にっぽん」はもはや相手にされていないともとれるかわいそうな境遇だ。国語辞典ではどうか。日本国語大辞典、国語大辞典、広辞苑、大辞林、大辞泉がやはり「にほん」を優先。「にっぽん」を優先していたのは日本語大辞典ただ一つだった。全体では八対一となり、「にほん」の圧勝である。
これで、「にっぽん」よりも「にほん」のほうが“認知度”が高いことが判明した。そこで今度はもっと具体的に、世間ではどちらがどの程度多く活躍しているかを調べてみた。数えるという作業は性に合わないので気が進まなかったが、とりあえず日本国語大辞典を選び、しぶしぶ数えてみた。両方出ている場合は優先されているほう(例えば「にっぽんじん」をひくと、『にほんじんに同じ』と出ていて、この場合は「にほんじん」が優先ということ)だけをとった。
すると、「にっぽん」は、日本銀行や通称NHKの日本放送協会など二十項目。これに対し、「にほん」は、日本国憲法、日本海、日本料理、日本語、日本史、日本刀ほか圧倒的多数で、なんと二百七十二項目。あまりの多さに仰天し、うんざりしてしまって数え直さなかったから間違っているかもしれないが、ま、だいじょうぶでしょう。もちろん、この辞書に載っているもの以外にもあるのは言うまでもないが、この“調査”もある程度の目安にはなるはずだ。
というわけで、二つの呼称が併用されているとはいえ、現実には「にほん」が主役や主演であり、「にっぽん」は脇役や助演のような立場であった。おそらく日常の会話でも、「にほん」のほうが多く登場するのではないだろうか。ただ、スポーツ競技の実況アナウンスなどでは、『にっぽんがリードしています』とか、『やったー、にっぽん金メダルーっ』とかというふうに、「にっぽん」も多く使われているような気もする。
「にほん」が優勢だったからといって収入が増えたりするわけでもないが、少しはすっきりした気分だ。めでたしめでたし。

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