
スミレ属は世界に500種
スミレは花も草本も小さく、決して華やかではありませんが、可憐な姿が親しまれています。名前の由来は、花の形が大工道具の「墨入れ」(墨壷)に似ていることから、これが転化してスミレとなった、というのが有力な説のようです。
ちなみに、花言葉は「誠実」や「控えめ」と、花の外観とよく合っています。
スミレの開花期は3月から5月頃ですが、もっとも盛んなのは3月から4月にかけての時期です。
日当たりのよい場所を好み、径が2センチから3センチほどの濃い紫色の可憐な花を咲かせます。花は上を向かず、横向きです。
スミレ属は世界に500種ほどあるといわれ、その多くは北半球の温帯地域に分布します。日本では世界のおよそ10分の1、55種が知られています。
日本のスミレは、茎の形で2種類に大別されます。地上茎があるタイプとないタイプです。
茎のあるタイプではニョイスミレ、タチスミレ、タチツボスミレ、エゾノタチツボスミレなどがあります。
茎のないタイプではミヤマスミレ、フモトスミレ、エイザンスミレ、ヒゴスミレ、スミレサイシンなどがよく知られています。
スミレの英名はご存じのバイオレットですが、これはスミレ全体のことではなく、ニオイスミレをさします。
ニオイスミレは一般家庭や公共施設の花壇など、非常に多くの場所で見かけられます。そんなことも関係しているのか、野生化して空き地や耕地の畔などで見かけることも少なくありません。
なお、ニオイスミレの原産地はヨーロッパから西アジアです。
|
ニオイスミレはギリシャ神話にも登場
ギリシャ神話にはこのニオイスミレが登場します。神話の中では最高位の神ゼウスに、イオという名の愛人がいました。
あるとき、このイオが、ゼウスの妻ヘラに見つかりそうになりました。慌てたゼウスは、イオを白い牝牛に変えてしまいました。ゼウスは、その牝牛に、餌としてニオイスミレを与えた、ということです。
この神話には別のストーリーもあります。イオを牝牛に変えたのはゼウスではなく、イオに嫉妬した妻のヘラのほう、というものです。
ゼウスは、牝牛にされたイオに食べ物を与えようとしましたが、たいした草は生えていませんでした。
かわいそうに思ったゼウスは、イオのために新しい草を作り出しました。それがニオイスミレというわけです。
どちらのストーリーにしても、イオは牝牛に変えられてしまうわけですが、イオにとっては気の毒な話です。
古代ギリシアの人々は、ニオイスミレのことを「濃い色のイオン」と呼び、アテネの街を「イオンの花冠をつけた市」として讃えました。
また、婚礼ではイオンの花冠をかぶり、部屋にはバラやニオイスミレを敷き詰めて祝ったということです。
ところで、ナポレオンはスミレが好きで、ナポレオン党のシンボルにまでしていました。あの勇猛果敢なナポレオンが、愛らしいスミレを好んでいたとは、少々意外な気がしないでもありません。