「行なう」の送り仮名は間違い?「おこなう」の漢字表記の身の上

「おこなう」を「行う」と表記するようになったのは昭和48年の内閣告示第二号からですが、現在でも「行なう」と表記しても間違いではありません。

漢字の読みや送り仮名は悩ましい。
漢字の読みや送り仮名は悩ましい。

 私は日本語が大好きです。しかし、日本語にはちょっと曖昧な部分もあり、腑に落ちないことや悩まされることもあります。一つの漢字に読みや意味が複数あったり、画数が極端に多い漢字があったり、その他諸々です。

 私は文を書くことを生業の一つとしてきましたが、語学の専門家でもなく、しかも文法は苦手です。ですから、自分のなかではすっきりしない疑問が少なからずあります。「おこなう」を漢字まじりで表記する場合の送り仮名も、その疑問の一つでした。

 私が子供のころは「行なう」と表記していた記憶がありますが、現在は「行う」が正式な用法とされています。いったいいつからそうなってしまったのでしょう。

内閣告示第1号と内閣告示第2号

 私は常用漢字表について調べはじめました。そのうちに、文化庁のホームページで「昭和34年内閣告示第1号」にたどりつきました。そこに「送りがなのつけ方」という表記がありました。

 その告示に関連して作られた、「昭和35年 三訂版 公用文の書き方 文部省」という冊子(資料集)が文化庁のホームページ上で公開されていました。

 そして、この冊子の369ページ目、「法令用語の送りがなのつけ方」の「第1 動詞」のなかで、「動詞は、活用語尾を送る。(中略)ただし、次の語(中略)に限って、活用語尾の前の音節から送る」とあり、例の一つとして「行なう」が示されているのです。「行なう」はここで堂々と自身の正当性を証明されているわけです。

 ちなみに、「行なう」のほかに「表わす(表す)」「著わす(著す)」「現われる(現れる)」「断わる(断る)」「賜わる(賜る)」などが例示されています。

 ところが、この内閣告示第1号は、昭和48年6月18日に、内閣告示第2号によって廃止されてしまったのです。

内閣告示(原文は縦書き)
内閣告示第二号
一般の社会生活において現代の国語を書き表すための送り仮名の付け方のよりどころを、次のように定める。
なお、昭和三十四年内閣告示第一号は、廃止する。
昭和四十八年六月十八日
                    内閣総理大臣 田中角榮

文化庁ホームページ

 この日をもって、「行なう」は「行う」に取って代わられてしまい、以後、肩身の狭い思いをさせられることになったというわけです。

「行なう」も認められている

 そして、改められた「送り仮名の付け方」の「本文」中に、「許容」の一例として「行なう」が記されています。この場合の「許容」というのは、「本則」「例外」「許容」という三つの扱いが決められているなかの一つで、簡単にいえば、慣用として市民権を得ているというような場合にはつかってよい、といった趣旨です。

 「行なう」は「活用のある語」というカテゴリーに含まれていて、「活用語尾の前の音節から送ることができる」と説明されています。

 つまり、「行なう」と表記しても間違いではないということです。人間の仕事にたとえてみると、正社員ではなく、嘱託やパートで採用されているというような立場ではないでしょうか。

 「行う」を「いう」とは読まないし、文章の場合は文脈から判別できるじゃないか、というごもっともな考え方もありますが、「な」がはいったほうが明快じゃないか、と私は思っています。

 現実に、きちんとした出版物でも「な」がはいった文章を見かけることがありますが、そのたびに私は「ああ、この筆者も私と同様の考えをもっているんだな」とか、「この出版社は著者のこだわりをわかってくれているんだな」などと思いをめぐらせているのです。

※内閣告示第一号では「送りがなのつけ方」という表記ですが、第二号では「送り仮名の付け方」となっています。

 言葉に関することは文化庁や文部科学省などの管轄です。詳しく知りたい場合はホームページなどを閲覧するといいでしょう。
 参考までに、この記事に関連するアドレスを記しておきます。

送り仮名の付け方 訓令、告示制定文(文化庁ホームページ)
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/kijun/naikaku/okurikana/kunrei.html

昭和35年 三訂版 公用文の書き方(文化庁ホームページ)
https://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/sisaku/joho/joho/series/21/pdf/kokugo_series_021.pdf